> 放射性物質の作用
放射性ストロンチウム -2011年06月13日
福島第一原発事故では多種類の核種の放射性物質が検出されています。
初期には特にヨウ素131、ヨウ素132が、そしてセシウム134、セシウム137(その他に135,136なども検出されている)が多くの割合を占めています。
この他、無視できない割合で、テルル129、ストロンチウム89、ストロンチウム90などが検出されています。
ストロンチウム-90(90Sr)
について、NPO団体「原子力情報資料室」のウェブサイトに下記の解説があります。
「ストロンチウム-90(90Sr)
半減期 29. 1年
崩壊方式
ベータ線を放出してイットリウム-90(90Y、2.67日)となり、イットリウム-90もベータ崩壊してジルコニウム-90(90Zr)となる。イットリウム-90は、核分裂直後はほとんど存在しないが、時間の経過とともに量が増す。1ヶ月後には放射平衡が成立して、ストロンチウム-90とイットリウム-90の放射能強度は等しくなる。
生成と存在
よく知られた人工放射能。ウラン鉱の中で、ウラン238(238U)の自発核分裂などによって生じるが、生成量は少ない。
人工的には、核分裂による生成が重要である。1メガトン(TNT換算)の核兵器の爆発で4,000兆ベクレル(4.0×1015Bq)が生成し、ストロンチウム-89(89Sr、50.5日)も80京ベクレル(8.0×1017Bq)が生じる。ストロンチウム-89/ストロンチウム-90放射能強度比は200である。
電気出力100万kWの軽水炉を1年間運転すると、10京ベクレル(1.0×1017Bq)のストロンチウム-90と260京ベクレル(2.6×1018Bq)のストロンチウム-89が蓄積する。上で述べた放射能強度比は26である。
化学的、生物学的性質
ストロンチウムはカルシウムと似た性質をもつ。化合物は水に溶けやすいものが多い。
体内摂取されると、一部はすみやかに排泄されるが、かなりの部分は骨の無機質部分に取り込まれ、長く残留する。
成人の体内にあるストロンチウムの量は320㎎である。
生体に対する影響
イットリウム-90は高エネルギーのベータ線(228万電子ボルト)を放出する。このベータ線は水中で10㎜まで届き、ストロンチウム-90はベータ線を放出する放射能としては健康影響が大きい。10,000ベクレルのストロンチウム-90を経口摂取した時の実効線量は0.28ミリシーベルトになり、10,000ベクレルのストロンチウム-89を経口摂取した時は0.026ミリシーベルトになる。二つの場合で線量が約10倍違うが、その原因はベータ線エネルギーと半減期の差による。
外部被曝が大きくなる恐れがある。皮膚表面の1cm2に100万ベクレルが付着した時には、その近くで1日に100ミリシーベルト以上の被曝を受けると推定される。
環境被曝の経過
主な体内摂取の経路は牧草を経て牛乳に入る過程で、土壌中から野菜や穀物などに入ったものが体内に摂取されることもある。また、大気中に放出された時には葉菜の表面への沈着が問題になる。
核兵器実験の影響
大気圏内核兵器実験では、すべての放射能が大気中に放出され、地球上の広い地域に降下するので、全人類に放射線影響がおよぶといってもよい。
アメリカと旧ソ連による大規模な大気圏内核兵器実験の影響で1960年代前半に大気中濃度が上昇し、食品の汚染がいちじるしかった。当時の日本人は1日に約1ベクレルのストロンチウム-90を取り込んでいたと推定されている。ストロンチウム-89の影響もあり、このような取り込みによる被曝は避けねばならない。
1963年までに、アメリカ、旧ソ連、イギリスとフランスが大気圏内核実験をおこなわなくなった。1964年以後は中国の核実験のみが大気中に放射能を放出していたが、1980年10月以降は中止している。
その後は、地下核実験がおこなわれている。この時に、大部分の放射能が地下に残るが、後に地下水の作用で外に漏れることも考えられ、地下核実験はどこでもできるものではない。また、クリプトンやキセノンのように気体である放射能は外に漏れる恐れがある。核爆発の瞬間にはクリプトン-89(3.2分)、クリプトン-90(32秒)が崩壊を繰り返してストロンチウム-89、ストロンチウム-90になるので、放射性ストロンチウムは他の放射能より放出されやすいと考えられる。
原発事故による放出
発電炉の運転では、ストロンチウムの放射能の放出はほとんどない。問題は重大事故である。炉心が破壊されれば、その中にある大量の放射能が外に放出される。
1986年4月26日に起こった旧ソ連(現、ウクライナ)のチェルノブイリ原発事故では、大量の放射能が放出された。ストロンチウム-90の放出量は、炉内の存在量がほぼ等しいセシウム-137(30.1年)に比べて小さかった。名古屋で採取した大気試料の分析によると、ストロンチウム-90/セシウム-137放射能強度比は0.002~0.02の範囲に分布していた。一方で、発電所周辺または近隣諸国に降下した放射能に含まれるものの放射能強度比は、上の値より高く0.1に達すると報告されている。このようなことは高温の核燃料の中からセシウム-137よりストロンチウム-90が放出されにくいことと放出された放射能の組成が不均一であることを示している。
放出量が少ないとはいえ現在でもその存在は認められ、事故地点の近くでは河川水などのストロンチウム-90による汚染が知られている。
再処理工場からの放出
再処理では、ストロンチウム-90のみが問題となる。ストロンチウムは揮発性化合物をつくりにくく、排気中には含まれない。再処理の工程を考えると排水中の放出量もゼロに近くできるはずである。実際はそうなっていない。フランスのラ・アーグ再処理工場からの2003年の排水中への放出量は、515億ベクレル(5.15×1010Bq)だという。これは必ずしも低い値ではない。
六ヶ所村工場からの予定放出量について議論するより実績を見るべきである。放出量は大きくはないが、海産生物に濃縮される恐れがあり、放出は厳重に監視されねばならない。
再処理後に発生するガラス固化体の中に含まれる放射能としては、挙動に注目すべき放射能の一つである。長期的には、長寿命のアメリシウム-241(241Am、433年)の存在が問題になるが、処分開始から1,000年ほどの間はストロンチウム-90とセシウム-137に注意をはらわねばならない。
放射能の測定
水試料では、ストロンチウムを分離し、1週間以上経過後に生まれてくるイットリウム-90を分離し、ベータ線を測定するのがふつうの方法である。。生物試料では、有機物を分解して溶液にした後に、同様の操作をおこなう。放射線測定には液体シンシレーション計数装置またはバックグラウンドの低いガイガー計数装置を用いる。体内にある量を知るには、排泄物中の放射能を測るバイオアッセイを用いる。」
次に、内閣府直属の食品安全委員会の会議資料(第4回 放射性物質の食品健康影響評価に関するワーキンググループ)において、今回の事故を受け、放射性物質の評価を行うための会議資料がありました。
http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20110525so1
専門的内容で読みにくいのですが、客観的研究内容であるため、一部抜粋してみます。
「①吸収
塩化ストロンチウムを経口摂取、もしくは食事によってストロンチウムを摂取した健常人及び病院患者について、ストロンチウムの吸収率が評価されてきた。経口摂取したストロンチウムと静脈内投与したストロンチウムを血漿ストロンチウム濃度-タイムプロファイルを測定(バイオアベイラビリティ)、もしくは摂取総量と便中への排泄量の差を測定(バランス)することで吸収が定量化された。まとめると、経口摂取されたストロンチウムの20%(range, 11 ~28%)は消化管から吸収されることがこれらの調査結果から示された。」
「幼児と小児を対象とした調査で、食事由来ストロンチウムの約15~30%が吸収されることが示され、これは成人で評価された値と似ていた(Alexander et al. 1974; Harrison et al. 1965; Kahn et al. 1969a; Sutton et al. 1971a)。
加齢に関連したストロンチウム吸収の変化はヒトを対象とした調査では判明しなかったものの、加齢に関連したストロンチウム吸収の変化はラットで観察されており、ヒトでは新生児時期にストロンチウムの吸収増加の可能性が示唆されている。」
「②分布
ヒトの体内における吸収されたストロンチウムの分布はカルシウムと似ており、総体内負荷量の約99%が骨格中に存在する。安定ストロンチウムの骨格負荷量はヒトの剖検骨サンプルの解析から評価されてきた(Herring and Keefer 1971a; O’Connor et al. 1980; Papworth and Vennart 1984; Tanaka et al. 1981)。日本の成人男子で骨格負荷量はカルシウム850 gに対して、ストロンチウムは約440 mgであると評価された(Tanaka et al.1981)。」
「Papworth とVennart(1984)はヒトの骨組織における90Sr 濃度及びカルシウム濃度と、1955 年から1970 年までの期間における英国国民の食事に関する公表データを解析し、食事による90Sr の摂取の約4.75%が成人骨格に取り込まれていると結論づけた。皮質骨の90Sr 負荷量の約7.5%が毎年骨から排出される(約9.2 年の排出半減期に相当する)。骨梁からの排出率はこの値の約4倍である。同じ解析で年齢によって変化するストロンチウムの骨格取り込みが、骨の成長率が他の年齢に比べて高い幼児期と青年期において、最大で約10%という値を得た。」
「妊婦の骨格に含まれるストロンチウムは妊娠期間で胎児に移行され得る。プルトニウム生産プラントからの放射が原因でストロンチウムに曝露したTecha 川エリアの居住者の調査では、ストロンチウムの胎児への移行の証拠が示された(Tolstykh et al. 1998, 2001)。胎児:母体の移行率(胎児と母体の骨格中の90Sr(Bq/g Ca)比)は妊娠前に曝露した6被験者とその7死産児について測定された(Tolstykh et al. 1998)。移行率は0.012 から0.24までと幅広く、より高い値は成人期で曝露した母体に関連し、より低い値は小児期または青年期で曝露した母体に関連していた。」
「妊娠末期の胎児のストロンチウム分布は、大部分のストロンチウム負荷量を骨格中に保有する母体の分布と似ている。」
「ストロンチウムはヒトで母乳中に入り、授乳期間で新生児に移行され得る(Harrison et al. 1965)。12人の健康な女性の母乳中のストロンチウム濃度は74 μg/L(range, 39~93)と測定され、Sr:Ca濃度比は0.24 μg Sr/mg Caであった(Harrison et al. 1965)。微量元素の輸送に関する実験で、出産3日後までの期間の29人の健康な女性から採取した初乳サンプル中のストロンチウム濃度は、出産20 分前に採取された静脈血から分離した血清中の濃度と同程度であることが示された(Rossipal et al. 2000)。」
「③排泄
ストロンチウムの長期(数十年)の排出は、ロシアのTecha 川地域でプルトニウム生産工程において核分裂生成物が流出した後、この地域でストロンチウム曝露を受けた人々について調査されてきた。男性361 人と女性356 人の母集団で、全身の排出半減期は男性で28 年、女性で16 年と評価された(Tolstykh et al. 1997)。男女で評価された排出速度の差の大部分は、50代以降の女性で排出速度が顕著に増加することによるものであった。この増加はおそらく、更年期後の女性で起こりやすい骨吸収の増加を反映している。Mullerら(1966)は56人のradium dial painter におけるストロンチウムの長期排出半減期は、近似値の25年と推定した。二人のdial painter で、ストロンチウムの長期排出半減期は9年と推定された(Wenger and Soucas 1975)。ストロンチウムの長期排出半減期の評価は、主として骨におけるストロンチウムの蓄積と放出を反映する。曝露後の短期間にわたって、より速い排出速度が観察された。この排出速度は骨に存在するより急速な交換性ストロンチウムプールからの排出と同様に、軟組織の排出を反映したものである。」
「消化管から吸収されたストロンチウムは主に尿と便中に排出される。Radium dial 従事者で観察された尿:便の排出比3は、SrCl2の静脈内投与された被験者グループで、投与後数日から数週間で観察された比率2~6と一致する(Bishop et al. 1960; Blake et al. 1989a, 1989b; Likhtarev et al. 1975; Newton et al. 1990; Samachson 1966; Snyder et al. 1964; Uchiyama et al. 1973)。すなわち、尿は吸収されたストロンチウムの主要な排出ルートであると思われる。経口曝露後の数週間から数十年、もしくは静脈内投与後の短期間にわたる放射性ストロンチウムの便への排出観察は、吸収されたストロンチウムの胆汁から、あるいは直接血漿から消化管へ輸送するメカニズムの存在を示唆している。」
「吸収されたストロンチウムは授乳期間中、母乳に排出される。12 人の健康な女性の母乳中のストロンチウム濃度は74 μg/L(range, 39~93)と評価され、Sr、Ca 濃度比は0.24 μg Sr/mg Ca と評価された(Harrison et al. 1965)。」
「ストロンチウムはヒト唾液と精液で検出されている。SrCl2の単回静脈内投与を受けた健康な被験者で、唾液:血漿の濃度比は0.9で、精液:血漿の濃度比は0.6であった(Harrison et al. 1967a)。」
「ヒトへの影響
① 慢性影響
a. 死亡
1949~1956年の間に飲料水中及び食品中の放射性ストロンチウム及び放射性セシウムに曝露されたTecha川の集団において、白血病及び固形がんで死亡した数が増加したと報告された(Kossenko 1996)。曝露群では、標準化死亡比が100,000 人当たり140(95% CI: 131~150)であったのに比べ、追跡調査期間(1950~1982年)における対照群では100,000 人当たり105(95% CI: 101~109)であった。試験群における赤色骨髄への吸収線量は17.6~164rad(0.176~1.64 Gy)であった。がん死亡率の増加は、曝露されたヒトの子孫には見られなかった。
b. 全身への影響
(a)血液学的影響
ヒト及び動物の試験において、血液学的な有害作用は、骨への放射性ストロンチウムの取込みに伴う(骨髄における)ベータ線と関係があった。
外部からのガンマ線と内部からの90Sr と137Cs による放射線に慢性的に曝露されたTecha川流域の人々は、白血球の減少、血小板の減少及び顆粒球の減少など血液学的指標の変化が認められている(Akleyev et al. 1995)。これらの影響は骨髄に対し年間30~50 rem(0.3~0.5 Sv)を超える割合で放射線量を受けた一部の人々で認められた。
(b)筋骨格への影響
放射性ストロンチウムへの経口曝露による骨格への影響は、ヒト及び実験動物において報告されている。主に関節及び関節周囲の組織に影響を及ぼすような骨格の栄養失調による障害が、食物や飲料水に混入した放射性ストロンチウム及び他の放射性核種に慢性的に曝露されたTecha川流域の人々において認められた(Akleyev et al. 1995)。骨格障害の罹患率は、骨の表面における平均線量が200 rem(2 Sv)を超えている場合に有意に高かった。
c. 免疫及びリンパ組織への影響
免疫学的な変化は、Techa 川の集団において報告されており、この集団は1949~1956年にかけて90Sr及び137Csからのγ線により慢性的な外部及び内部被ばくをした。(Akleyev et al. 1995)。免疫系への障害としては、分化T細胞による抗原提示の減少、T-lymphoblast 形成の減少、large granulocytic lymphocytes の減少が含まれ、30年間持続した。年間30~50 rem(0.3~0.5Sv)を超える放射線を骨髄に受けた集団の一部においては、顆粒球減少症が発生した。Akleyev ら(1995)は、放射線誘発性免疫不全は、集団曝露における白血病の発症率の高さに寄与している可能性を示唆した。免疫不全の臨床的所見としては、放射線に曝露されたがん患者における感染症(慢性肺炎、慢性気管支炎、肺結核の発生率及び骨髄炎)の発症が、非腫瘍性の患者グループに比べて3倍増加していた。
d. 神経系への影響
神経系疾患(脱力感、無気力、疲労)が、1949~1956 年にかけて90Sr 及び137Csからのγ線により慢性的な外部及び内部被ばくにさらされたTecha川の集団において報告されている(Akleyev et al.1995)。慢性的に年間40~50 rem(0.4~0.5 Sv)以上の割合の線量において、神経への影響が観察され、曝露集団においては14~20年間持続した。しかしながら、ストロンチウムによる放射線量が、γ線による外部被ばくによるもの比べて、神経への影響にどの程度寄与しているかは明確ではない。
e. 生殖への影響
1949~1956年にかけて90Sr及び137Csからのγ線により慢性的な外部及び内部被ばくにさらされたTecha川の集団において、生殖への影響の統計学的に有意な報告はされていない(Kossenko et al.1994)。生殖腺に主に外部からのγ線により74 rem(0.74 Sv)の平均線量を受けた集団においては、出生率、受精率、自然流産の発生率には影響しなかった(Akleyev et al. 1995)。子宮外妊娠の発生は線量との関連はなかった。これらの結果について、曝露は様々な線源から受けており生殖腺への線量のうち放射性ストロンチウムからの寄与は小さいと思われる。
f. 発生への影響
1949~1956年にかけて90Sr及び137Csからのγ線により慢性的な外部及び内部被ばくにさらされたTecha川の集団において、発生への影響についての報告はほとんどされていない(Kossenko et al. 1994)。生殖腺に対して主にγ線による74 rem(0.74 Sv)までの外部被ばくを受けた女性のコホート研究においては(Akleyev et al. 1995)、放射性ストロンチウムによる線量割合は特定されていないが、おそらく相対的に小さいものとされる。自然流産、流産、死産の発生数の増加は確認されなかった。しかしながら、曝露群の後代では、対照群と比較して、染色体欠損並びに先天性の神経系、循環器系及びその他の特定されない異常による乳幼児死亡率のわずかな増加がみられた。これらの異常及び分娩合併症による死亡、並びに出産前後期の詳細不明の死亡を考慮すると、生殖腺に11 rem(0.11 Sv)の線量を受けた親の子では、死亡率が曝露を受けていない対照群に比べ2倍となった。Kossenkoら(1994)は、自然流産、流産、早期新生児死亡及び致死的な発達影響を対照群の2倍引き起こす生殖腺線量は、別のエンドポイントに対する20~480 rem(0.2~4.8 Sv)の範囲よりも高いと試算した。
g. 発がん性
疫学研究では、放射性降下物からの放射性ストロンチウムの経口摂取とヒトの発がん性には関連が少ないもしくはないという結果がでている。Danishがん登録を使った疫学研究によると、1943~1988 年の間のデンマークにおける甲状腺がんの事例と、放射性降下物からの90Sr の骨格への吸収には関連がないという結果がでている(Sala and Olsen 1993)。1959~1970年にかけてスコットランドのグラスゴーにおける90Sr のモニタリングプログラムで収集されたデータを使用した他の疫学研究では、白血病、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、すべての小児がん及び骨腫瘍について三つのコホートが同定された(Hole et al. 1993)。三つのコホートには、1963~1966年に生まれたハイリスク群(若齢で放射性降下物、すなわち90Sr に高レベルに曝露)、1959~1962 年に生まれた中程度リスク群(高齢で高レベルに曝露)、そして1966年以降に生まれた低リスク群がある。すべてのがん、白血病及び非ホジキンリンパ腫そして急性骨髄性白血病の累積発現率はすべて、1982 年以前生まれた子供に対する長期的(進行性、非循環的な)増加傾向を示している。しかしながら、当該研究は白血病及び非ホジキンリンパ腫又は急性骨髄性白血病といったがんすべてについて、放射性降下物(放射性ストロンチウム)の高曝露時期に生まれたコホートに対するリスクを増加させたという証拠には至っていない。骨腫瘍の数例が、高リスク期間に生まれた子供に対して統計的に優位でない増加を示している。
対照的に、核兵器施設からTecha 川への放出により汚染された飲料水及び食品に曝露された住民は、白血病症例の著しい増加が示されている。(Kossenko 1996;Kossenko et al. 1997、2000、2002)。推定骨髄放射線量が10 rem(0.1 Gy)を超えると個体群に過度の白血病(10,000 人年Gyにつき0.85 件増加(95%Ci:0.2;1.5))が確認され、白血病による致死リスクは放射線量の増加により増加する(Kossenko 1997、2002)。この研究結果は、Techa川のコホートにおける90Sr の体内負荷量が同時期の放射性降下物関連の曝露より100 倍以上高いことと関連している(Shagina et al. 2000)。Techa川コホートの子孫において発がん率の増加は確認されていない(Kossenko 1996)。」
放射性セシウム -2011年06月13日
福島第一原発事故では多種類の核種の放射性物質が検出されています。
初期には特にヨウ素131、ヨウ素132が、そしてセシウム134、セシウム137(その他に135,136なども検出されている)が多くの割合を占めています。
この他、無視できない割合で、テルル129、ストロンチウム89、ストロンチウム90などが検出されています。
セシウム-134(134Cs)について、NPO団体「原子力情報資料室」のウェブサイトに下記の解説があります。
「セシウム-134(134Cs)
半減期 2.06年
崩壊方式
ベータ線を放出してバリウム-134(134Ba)となり(99.9997%)、軌道電子を捕獲してキセノン-134(134xe)にもなる(0.0003%)。多くのガンマ線が放出される。
生成と存在
人工的につくられる放射能。天然では、大気中で宇宙線とキセノンの反応で生成するが、生成量はきわめて少ない。
人工的には、セシウム-133(133Cs、同位体存在比100%)が中性子を捕獲すると生成する。核分裂では生成せず、核兵器の爆発によっては生じないと考えてよい。原子炉の運転では、核分裂生成物であるキセノン-133(133xe、5.3日)のベータ崩壊で生じるセシウム-133が中性子を捕獲して生成する。セシウム-134が環境中に存在すれば、原子炉から放出されたか使用済み核燃料から出てきたものである。
電気出力100万kWの軽水炉を1年間運転すると、原子炉の種類と運転状況で変るが、5~20京ベクレル((5~20)×1016Bq)が蓄積する。この時に核分裂で生じるセシウム-137(137Cs、30.1年)との放射能強度比(134Cs /137Cs比)は0.4~1.5の範囲に入る。
1986年4月26日に起こった旧ソ連のチェルノブイリ原発事故では、4京ベクレル(4.0×1016Bq)が放出された。名古屋で採取した大気試料では、134Cs /137Cs比は0.55であった。この比の値は核燃料が1年以上炉内に入っていたとする推定とは矛盾していない。
化学的、生物学的性質
セシウムの化学的性質と体内摂取後の挙動は、生物にとって重要な元素であるカリウムと似ている。体内に入ると全身に分布し、約10%はすみやかに排泄され、残りは100日以上滞留する。成人の体内にあるセシウムの量は1.5㎎で、カリウムの140gの約10万分の1である。
生体に対する影響
体内に摂取した時のベータ線による内部被曝が問題になり、10,000ベクレルを経口摂取した時の実効線量は0.19ミリシーベルトになる。また、1mの距離に100万ベクレルの小さな線源があると、ガンマ線によって1日に0.0055ミリシーベルトの外部被曝を受ける。
環境被曝の経過
ラップランド人では、大気からコケなどを経てトナカイに入り、トナカイに入っている放射性セシウムを摂取する過程が経路である。ふつうは、土壌から野菜や穀物を経て人が摂取する経路が重要であり、大気中から葉菜への沈着も問題になる。
土壌の中での挙動は土質によって異なる。粘土質の土壌ではよく吸着され、植物には取り込まれにくい。
水圏での挙動は単純ではない。淡水には溶けにくく、湖底堆積物に含まれることが多い。海水には溶けて、魚などに摂取されやすい。
再処理工場からの放出
セシウムは水溶液中で揮発性化合物をつくらず、排気中に入らない。排水中の量も低くできるはずであるが、実際はある程度の量が入っている。フランスのラ・アーグ再処理工場からの2003年の排水中への放出量は419億ベクレル(4.19×1010Bq)だという。134Cs /137Cs比は0.055であったが、この減少はセシウム-134の崩壊によっている。
放射能の測定
土壌などの環境試料は適当な容器に入れ、ゲルマニウム半導体検出器でガンマ線を測定するのがふつうの方法で、0.1ベクレルまで検出できる。体内にあるものは、全身カウンターで測定できる。」
セシウム-137(137Cs)について、NPO団体「原子力情報資料室」のウェブサイトに下記の解説があります。
「セシウム-137(137Cs)
半減期 30.1年
崩壊方式
ベータ線を放出してバリウム-137(137Ba)となるが、94.4%はバリウム-137m(137mBa、2.6分)を経由する。バリウム-137mからガンマ線が放出される。
生成と存在
セシウムの代表的な放射性同位体。天然では、ウラン鉱などの中のウラン238(238U)の自発核分裂によって生じるが、生成量は少ない。
人工的には、核分裂による生成が重要である。1メガトン(TNT換算)の核兵器の爆発で6,300兆ベクレル(6.3×1015Bq)が生じる。電気出力100万kWの軽水炉を1年間運転すると、14京ベクレル(1.4×1017Bq)が生じる。
(中略)
1970年まではアメリカと旧ソ連、それ以後は中国による大気圏内核実験の影響である。頻繁に核兵器実験が実施された1960年代前半に日本人は1日に1ベクレル以上を摂取していたと推定されている。
1986年4月26日に起こった旧ソ連のチェルノブイリ原発事故では、8京ベクレル(8.0×1016Bq)が放出された。1986年の急激な濃度の増加は、その影響である。期間が短いとはいえチェルノブイリ原発事故による濃度の増加は大きかった。
化学的、生物学的性質
「セシウム-134」を参照。
生体に対する影響
10,000ベクレルを経口摂取した時の実効線量は0.13ミリシーベルトになる。また、1mの距離に100万ベクレルの小線源があると、ガンマ線によって1日に0.0019ミリシ-ベルトの外部被曝を受ける。
旧ソ連原発事故では、広い地域が1m2あたり50万ベクレル(5.0×105Bq)以上のセシウム-137で汚染された。そのような場所では、セシウム-137のみから1年間に1ミリシーベルト以上の外部被曝を受ける。事故直後は、短寿命放射能の存在と内部被曝の寄与で年間10ミリシーベルトをはるかに超える被曝を受けていた。ふつうの人は、そこに住むことはできない。(「ストロンチウム‐90」も参照)
再処理工場からの放出
セシウムは排気中にはほとんど入らない。排水中の放出量も低いはずであるが、フランスのラ・アーグ再処理工場からの2003年の排水中への放出量は、7580億ベクレル(7.58×1011Bq)だという。これは決して少ない量ではなく、六ヶ所村工場が稼動した時の放出は厳重に監視されねばならない。
再処理後に発生するガラス固化体の中に含まれるガンマ線を放出する放射能として重要である。「ガラス固化体の近くでは、10分間に死にいたる被曝をする」などといわれる時には、セシウム-137から放出されるガンマ線の影響が考えられている。処分開始から1,000年の間はセシウム-137に特に注意をはらわねばならない。
放射能の測定
試料を適当な容器に入れ、ゲルマニウム半導体検出器でガンマ線を測定するのがふつうの方法である。体内にあるものは、全身カウンターで測定できる。」
次に、内閣府直属の食品安全委員会の会議資料(第4回 放射性物質の食品健康影響評価に関するワーキンググループ)において、今回の事故を受け、放射性物質の評価を行うための会議資料がありました。
http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20110525so1
専門的内容で読みにくいのですが、客観的研究内容であるため、一部抜粋してみます。
「①吸収
可溶性化合物として経口摂取されたセシウムはヒト及び動物の消化管でよく吸収されることが一般的に受け入れられている。溶解性のセシウムがヒトで経口摂取後によく吸収されることを示す知見としては(1)糞便排泄率が低い、(2)尿中排泄率は糞便より8 ~10倍高い、(3)消失半減期は45~147日(Henrichs et al. 1989; Iinuma et al. 1965; chmond et al. 1962; Rosoff et al. 1963)等がある。Henrichs et al.(1989)は、高濃度の134Csと137Cs10 が混入された鹿肉を経口摂取した成人ボランティア10人(男性5人、女性5人)で、セシウムの平均吸収率を78%と推定した。ヒト被験者におけるその他の試験成績では、可溶性の形態で経口摂取したセシウムの90%以上が吸収されることを示している(Rosoff et al.1963; Rundo 1964; Yamataga et al. 1966)。放射性フォールアウト粒子の経口摂取による137Cs の吸収はわずか3%までの範囲であり、これは、その粒子が体液中では比較的不溶性であることを示している(LeRoy et al. 1966)。チェルノブイリ事故の放射性フォールアウトで汚染された地域に住む女性の母乳で、検出可能な量137Csが認められた(Johansson et al. 1998)。母親と乳幼児の全身の放射能測定と母乳サンプルで測定された放射能に基づき、汚染された食品に由来する母 親の1日当あたりの137Cs摂取量の15%が乳幼児に移行すると推定された。」
「②分布
可溶性のセシウム化合物を経口曝露したヒトで、セシウムの広範な体内分布が観察された。137CsClを経口投与された被験者2人で、投与後1時間以内の137Csの全血中レベルは
投与量の約2~3%に達し、このことは137Csが速やかに吸収され、血液循環を介して運ば
れたことを示していた(Rosoff et al. 1963)。」
「③代謝
吸収されたセシウムはカリウムと同様な挙動をする(Rundo 1964; Rundo et al. 1963)。カリウム及びセシウムは、陽イオンとして全身にくまなく分布するアルカリ金属であり、能動輸送機構によって細胞内液に取り込まれる。セシウムはカリウムチャネルを介した輸送でカリウムと競合することが示されており、ナトリウムポンプの活性化及びそれに続く細胞内輸送においてカリウムにとって代わることもできる(Cecchi et al. 1987; Edwards 1982; Hodgkin 1947; Latorre and Miller 1983; Sjodin and Beauge 1967)。」
「平衡状態では体内のカリウム又はセシウムのほとんどが骨格筋に存在するため、この結果としてカリウムよりセシウムの滞留時間が筋肉細胞で長くなり、したがって、全身の滞留時間も長くなる。しかしながら、赤血球の細胞外への輸送、あるいは上皮細胞を横断した輸送又は上皮細胞の間の輸送では、セシウムはいくらか有利にカリウムと競合するようにみえる(Cereijido et al. 1981; Greger 1981; Wright 1972)。」
「④排泄
ヒトでは尿中排泄がセシウムの主要な排出経路である。137CsClを単回経口投与されたがん又は肺疾患の患者7人では、137Csの7日間累積排泄は投与された放射活性の7.0~17.3%であった。尿:糞便の排泄比率は2.5:1~10:1であった(Rosoff et al. 1963)。137CsCを単回経口投与された日本人ボランティア4人では、投与後4日に採取された排泄データから尿:糞便の排泄比率が4.57:1~8.75:1と算出された。投与後最初の4日間では、排泄率が一貫して高く、尿:糞便の排泄比もいくらか高かった(Iinuma et al. 1965)。」
「137Csの排出速度は年齢と性別に依存する。排出速度は、年齢とともに低下する成人女性に比べて、成人男性の方が低い。核実験のフォールアウトに由来する137Csを含んだ食品を摂取した集団での試験結果は、乳幼児の15±5日から成人の100±50日までばらつきのある消失半減期を示していた(McCraw 1965)。チェルノブイリ原子力発電所の事故後の同様な試験は同程度の消失半減期を示し、1歳児の約8日から成人の約110日の範囲であった(IAEA 1991)。不特定集団内の横断面を構成する110人の4年間の研究では、5~14歳の子どもで最も短い消失半減期20日が認められた。男女で有意差はなかった(Boni 1969b)。年齢の高い集団における消失半減期は著しく長かった(青年期及び成人の女性で47日、15歳男性で67日、30~50歳男性で93日)。Melo et al.(1994)も、ブラジルのゴイアニアで137CsClに内部汚染された個人間に、消失速度に年齢と性別に関連した違いがあることを報告した。1~4歳の女児の消失半減期は平均24日であった。7~10歳の女児及び男児では、消失半減期は平均37日であった。青年及び成人男性の消失半減期はそれぞれ58日及び83日と推定された。これに対して青年期及び成人の女性では46日及び66日であった。Melo et al(. 1994)の研究では、成人女性を除くすべての年齢集団及び性別で137Csの生物学的半減期と体重の間に高い相関性が見つかった。」
「セシウムは母体から胎盤を通過し胎児へ移行する。ヒトの胎盤と胎児組織で測定可能な量の137Csが検出されている(Toader et al. 1996; Yoshioka et al. 1976)。セシウム濃度は未熟な胎児より成長した胎児の方が高い(Toader et al. 1996)。妊娠前後の測定又は妊娠していないコントロールと比べて妊娠中の消失半減期が短いことが示されており、妊娠は母体からのセシウムの除去を増加させるかもしれない(Bengtsson et al. 1964; Rundo and Turner 1966; Thornberg and Mattsson 2000; Zundel et al. 1969)。ヒト母乳でもセシウムが検出されている(Thornberg and Mattsson 2000)。」
「ヒトへの影響
① 急性影響
放射性セシウムへの急性の経口曝露に関連すると考えられるヒトでの神経系への影響、発生への影響、発がん性に関する報告は見つからなかった。
a. 死亡
放射性セシウムへの急性の経口曝露のみに関連すると考えられるヒトでの死亡に関する報告は見つからなかった。放出された137CsClに対して大人及び子どもが外部、経皮、及び経口で複合的に曝露した事故では、患者50人が短期的に顕著な病的状態となり、4.5~6 Gy(450~600 rad)の被曝があったと推定された人のうち4人が数週間以内に死亡したと報告された(Brandao-Mello et al. 1991)。
b. 全身への影響
ブラジルのゴイアニアで放出された50.9 TBq(1,375 Ci)の137CsClに外部、経皮、経口で複合的に曝露した多数の人々では、吐き気、嘔吐、下痢に特徴づけられる急性放射線症候群が報告された。その他の有害影響は、皮膚病変、眼性病変、重篤な骨髄抑制、及びいくつかの肝臓酵素活性の軽度な上昇であった(Brandao-Mello et al. 1991; Gomes et al. 1990; Rosenthal et al. 1991)。
(a)消化器系への影響
放出された137CsClへの急性被ばくで治療された患者8人では、嘔吐、下痢、及び吐き気が見られた(Brandao-Mello et al. 1991)。これら及び他の症状は急性放射線症候群の古典的な症状であった。
(b)血液への影響
ブラジルのゴイアニアで持ち去られた50.9 TBq(1,375 Ci)の 137CsClを含む医療用放射線源に過剰曝露した1987年の事例では、約250人が外部汚染され、そのうちの多くは内部汚染もされた。20人は急性放射線症候群を発症し、そのうち14人は1~7.0Gy(100~700 rad)の全身照射を受けて骨髄機能不全に陥った。被ばく量の多かったこの14人のうち4人が死亡した。これらの影響は骨髄の造血細胞が死滅する造血症候群(hemopoietic (blood forming) syndrome)の典型的な徴候と症状である。全ての血球が激減し、結果として免疫システムの機能不全に陥り、貧血が生じる(Brandao-Mello et al. 1991; Gomes et al. 1990)。
(c)肝臓への影響
放射性セシウム急性経口曝露と肝臓への影響とを関連づける報告は見つからなかった。放出された137CsCl放射線源に被曝して入院した患者数人で、アミノトランスフェラーゼ(ALT/AST)の軽度な上昇がみられた(Brandao-Mello et al. 1991)。曝露は外部及び内部の両方であった。
(d)皮膚への影響
皮膚への影響の報告は、開放された137CsCl放射線源への多くの人の偶発的な外部、経皮、及び経口の複合的曝露に限定され、1~7 Gy(100 ~700 rad)と推定される放射線量を急性曝露した患者21人で、口腔内出血、随伴性の口腔内発疹・口腔内潰瘍・急性口腔内カンジダ症、放射線皮膚炎、及び色素脱失を含む口腔顔面の病変が観察された(Gomes et al. 1990)。同じ事例で曝露した何人かは、典型的な放射線による皮膚病変を示していた。重篤な放射線損傷を受けた1人は前腕を切断することとなった(Brandao-Mello et al. 1991; Gomes et al. 1990)。
(e)眼球への影響
開放された137CsCl放射線源に外部、経皮、及び経口で複合的に曝露した入院患者20 人のうち、少数の患者が流涙、充血、結膜の浮腫、及び眼の痛みを訴えた(Brandao-Mello et al. 1991)。少数例の遅発性の視力低下も報告され、中には網膜損傷も認められた。これらの症例では、水晶体の透明度には変化がなかった。これらの影響は放射線によるもので、セシウム自体によるものではなかった。
c. 免疫及びリンパへの影響
開放された137CsCl放射線源に外部、経皮、及び経口で複合的に曝露し、吸収された線量が1~7 Gy(100~700 rad)と推定される入院患者14人で、白血球数減少及びその結果生じる免疫不全に特徴づけられる重篤な骨髄抑制を発症した(Brandao-Mello et al. 1991)。
d. 生殖への影響
開放された137CsCl放射線源から数百radのオーダーの急性被ばくと推定され、約1か月間、検査された男性9人の精液では、精子が減少又は消失していた(Brandao-Mello et
al. 1991)。この人たちは外部、経皮、及び経口の複合的な曝露を経験したかもしれない。
② 中期影響
放射性セシウムへの中期(亜急性・亜慢性)の経口曝露のみに関連すると考えられるヒトでの死亡、全身への影響、免疫及びリンパへの影響、神経系への影響、生殖への影響、発生への影響、発がん性に関する報告は見つからなかった。
③ 慢性影響
放射性セシウムへの慢性の経口曝露のみに関連すると考えられるヒトでの死亡、免疫及びリンパへの影響、神経系への影響、生殖への影響、発生への影響、発がん性に関する報告は見つからなかった。
a. 全身への影響
放射性セシウムに慢性経口曝露したヒトにおける呼吸器系、消化器系、心血管系、筋骨格系、腎臓、内分泌、体重、又は代謝への影響に関するデータは見つからなかった。
持ち去られた50.9 TBq(1,375 Ci)の 137CsClを含む医療用放射線源に過剰曝露した1987年の事例では、約250人が外部汚染され、そのうちの多くは内部汚染もされた。20人は急性放射線症候群を発症し、そのうち14人は1~7.0 Gy(100~700 rad)の全身照射を受けて骨髄機能不全に陥った。被ばく量の多かったこの14人のうち4人が死亡した。これらの影響は骨髄の造血細胞が死滅する造血症候群(hemopoietic(blood forming)syndrome)の典型的な徴候と症状である。全ての血球が激減し、結果として免疫システムの機能不全に陥り、貧血が生じる(Brandao-Mello et al. 1991; Gomes et al. 1990)。」
放射性ヨウ素 -2011年06月13日
福島第一原発事故では多種類の核種の放射性物質が検出されています。
初期には特にヨウ素131、ヨウ素132が、そしてセシウム134、セシウム137(その他に135,136なども検出されている)が多くの割合を占めています。
この他、無視できない割合で、テルル129、ストロンチウム89、ストロンチウム90などが検出されています。
ヨウ素-131(131I)について、NPO団体「原子力情報資料室」のウェブサイトに下記の解説があります。
「ヨウ素-131(131I)
半減期 8.04日
崩壊方式
ベータ線を放出して、キセノン-131(131Xe)となる。ガンマ線が放出される。
生成と存在
ヨウ素のもっともよく知られている放射性同位体。天然では、大気中で宇宙線とキセノンの反応によって生成し、地上でウラン‐238(238U)の自発核分裂によって生じる。いずれにしてもその量は小さい。
人工的には、核分裂で大量に生成する。1メガトン(TNT換算)の核兵器が爆発すると、460京ベクレル(4.6×1018Bq)が生じる。電気出力100万kWの軽水炉を1ヶ月以上運転すると、310京ベクレル(3.1×1018Bq)が蓄積して、その後は同じ量が存在し続ける。
化学的、生物学的性質
「ヨウ素-129」を参照。
(※当サイト注:ヨウ素129の項は下記『』)
『地球環境で、ふつうはヨウ化物イオン(I-)または単体(I2)として存在する。単体は昇華しやすく、酸性水溶液を加熱すると大気中に揮発する。
甲状腺ホルモンに含まれる必須元素で、体内に取り込まれると、ほとんどすべてが甲状腺(成人で20gの重量)に集まる。成人の体内にあるヨウ素の量は11㎎で、1日に摂取する量は0.20㎎である。この量を摂取するには、小さな塩昆布1枚を食べれば十分である。』
生体に対する影響
ガンマ線は放出されるが、ベータ線による甲状腺被曝が大きな問題となる。10,000ベクレルを経口摂取した時の実効線量は0.22ミリシーベルトになる。ガンマ線による被曝は甲状腺以外におよぶが、その線量は小さい。
外部被曝も考えておきたい。1mの距離に100万ベクレルの小さな線源があると、ガンマ線によって1日に0.0014ミリシーベルトの被曝を受ける。
原子炉事故の際の放出
原子炉事故が起これば、大量の放射性ヨウ素が放出されると予想されていた。
代表的な事故の一つが、1957年10月にイギリスのウインズケール(現、セラフィールド)のプルトニウム生産炉で起こった事故である。700兆ベクレル(7.0×1014Bq)のヨウ素-131などが施設外に放出され、周辺地域で生産された大量の牛乳が廃棄された。
この事故をはるかに上回るのが、1986年4月26日に起こった旧ソ連(現、ウクライナ)のチェルノブイリ原発の暴走事故である。この事故では、30京ベクレル(3.0×1017Bq)が放出された。その影響は大きかったが、顕著なものとして甲状腺がんの多発がある。事故の影響を小さくみようとする専門家も居たが、そのような人たちもこの事実は認めざるを得なかった。
体内被曝までの経過
人がヨウ素を吸収する主な経路は、牧草→牛→牛乳→人の食物連鎖である。この移行はすみやかに進み、牛乳中の放射性ヨウ素濃度は牧草上に沈積した3日後にピークに達する。牧草から除去される有効半減期は約5日である。牧草地1m2にヨウ素-131が1,000ベクレル沈積すれば、牛乳1リットルに900ベクレルが含まれると推定されている。
チェルノブイリ事故では、放出量が大きかったために、飲料水、空気などを通る経路も考える必要があった。
再処理工場からの放出
六ヶ所村で処理する核燃料の中には、原子炉の運転中に生成したヨウ素-131はすべて崩壊しているが、核燃料中で起こるプルトニウム-240の自発核分裂などで少量が存在している。ヨウ素-129と同様に外部に放出されるが、半減期が短いために被曝線量は小さい。
放射能の測定
ガンマ線測定によって量を求めるのが、ふつうの方法である。試料を適当な容器に入れ、ゲルマニウム半導体検出器で測定すればよい。検出感度を上げるには、試料を分解してヨウ素を分離し、小さな試料として測定することもある。体内にあるものは全身カウンターで測定できる。」
次に、内閣府直属の食品安全委員会の会議資料(第4回 放射性物質の食品健康影響評価に関するワーキンググループ)において、今回の事故を受け、放射性物質の評価を行うための会議資料がありました。
http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20110525so1
専門的内容で読みにくいのですが、客観的研究内容であるため、一部抜粋してみます。
資料3:放射性ヨウ素知見とりまとめ(案)[PDF]
「経口摂取された放射性ヨウ素がほぼ完全に吸収されることが示唆された(Fisher et al. 1965)」
「ヨウ素は人体に約10~15 mg 含まれ、そのうち70~90%が甲状腺に存在するが、甲
状腺は血中及び他の組織に分泌される甲状腺ホルモンを生産するためにヨウ素を蓄積す
る(Cavalieri 1997; Hays 2001; Stather and Greenhalgh 1983)」
「母体がヨウ素へ曝露されると胎児も曝露される(ICRP 2002)。」
「ヨウ素欠乏症のような低摂取時(例えば20 μg/日)には、ヨウ化物の甲状腺取込みは増加する(Delange and Ermans 1996)」
「ヨウ化物(1.5~2.0 mg /m2 of surface area)を反復経口投与された小児においては甲状腺取込みが80%減少した(Saxena et al. 1962)」
「吸収されたヨウ素は主に尿中及び糞便中に排泄されるが、乳汁、呼気、汗及び涙にも排泄される(Cavalieri 1997)」
「吸収されたヨウ素の全身の消失半減期は、健常成人男性においては約31日と考えられている(Hays 2001)。しかし、半減期はかなり個体差があると思われる(Van Dilla and Fulwyler 1963)」
「放射性ヨウ素曝露の主要な全身作用は甲状腺に対するものである。しかしながら、甲状腺がんの切除治療に用いられるような比較的高線量の放射性ヨウ素に曝露した後、唾液腺の炎症(唾液腺炎)を含む、その他の全身作用が観察されている。」
「 ○マーシャル諸島ブラボー核実験
(中略)悪心、嘔吐、血液学的抑制及び皮
膚の放射線熱傷を含む急性放射線宿酔の徴候が被ばく後早期に広く認められた。被ばくから10年経過した1964年に被ばく集団で甲状腺疾患の症例が見つかるようになり、特に子どもで多く見つかった。これらは明らかな発達遅滞、粘液水腫及び甲状腺腫瘍の症例を含んでいた(Conard et al. 1970)。」
「ブラボー実験当時1歳未満であった子どもの83%に
甲状腺機能低下症の徴候(例:血清中TSH濃度>5 mU/L)があることが発見された。この小児集団は推定で1,500 rad(15 Gy)を超える甲状腺線量を受けていた。甲状腺機能低下症の有病率と甲状腺放射線量は被ばく年齢とともに減少した。2~10歳で25%(800~1,500 rad, 8~15 Gy)、10歳以上で9%(335~800 rad, 3.35~8.00 Gy)。」
「甲状腺結節の有病率(触知可能及び超音波検出)は男性より女性の方が3倍高かった。女性の中では、1959年の最後の核実験の日付より前に生まれた女性で最も有病率が高かった(13%、3,151人中407人)。」
「○チェルノブイリ原子力発電所事故
1986年のチェルノブイリ原子力発電所からの放射性物質の放出後、ベラルーシの子どもにおける甲状腺結節の有病率増加が報告された(Astakhova et al. 1996)。1990~1995年に実施されたベラルーシにおける20,785人の超音波検査結果の解析は、甲状腺結節の有病率が1,000人当たり4~22人であることを明らかにした。甲状腺放射線量が1 Gy(1.3~1.6 Gy, 130~160 rad)を超えると推定された地域の住人で、有病率が最も高かった(16~22 per 1,000)。超音波検査の結果、更なる検査のために参照された患者から確認された診断は、甲状腺放射線量が1 Gy(1.3~1.6 Gy, 130~160rad)を超えると推定された地域の症例では、甲状腺がんの有病率が1,000人当たり2.5~6.2人、あるいは結節症例の約13~50%であることを明らかにした。甲状腺結節症例のうち7~12%が腺腫、5~22%が結節性甲状腺腫(nodular goiter)、7~64%が良性嚢腫(benign cysts)と診断された。」
「神経系への影響
甲状腺機能低下状態が出生後(ホルモン補充療法などで)回復しない場合、大量の放射性ヨウ素の胎児への曝露は、甲状腺組織切除と同様に脳や神経筋の発達遅延をもたらす可能性がある。例として、母親が妊娠6週目の時に131Iを99 mCi(3.7 GBq)受けた乳児の生後8か月齢の時に、神経性の後遺症として重度の甲状腺機能低下症を発症した症例がある(Goh 1981)。」
「免疫系への影響
ヒトに対する放射性ヨウ素の経口曝露の免疫学的影響に関する情報として、甲状腺自己免疫に関連するものがある。
甲状腺機能亢進症の切除治療のための131I 被ばく後の自己免疫性甲状腺機能亢進症の症例が報告された。」
「チェルノブイリ放出事故によって0.4~3.2 Gy(40~320 rad)被ばくした7~14 歳の53名の子ども(1993~1994年)の血清抗サイログロブリン抗体価が測定され、抗体価は被ばくした子どもで80.6%、131Iに曝露されなかった対照群で16.7%であり、抗体価と推定甲状腺131I 投与量の間には、有意な正の相関が示された。これらの結果は、甲状腺自己免疫疾患に甲状腺放射性ヨウ素曝露が寄与する可能性を示唆している。」
「発がん性
1986~1993年に甲状腺がんと診断されたベラルーシの14歳未満の小児251例を解析した。症例をそれぞれの平均甲状腺線量を反映した地域別に分類したところ、発生率において線量との関連が認められた(Drobyshevskaya et al. 1996)。」
「被ばく時に3歳未満又は胎児であった小児は甲状腺がん症例の53%を占めていた。この年齢群が被ばくした甲状腺線量は、年長の小児(平均約1.4 Gy)に対し約2~3 倍と推定された。しかし、甲状腺がんの52%が甲状腺線量推定値0.3 Gy 未満の小児において診断されており、84%が1 Gy未満の小児において診断されている。0.3 Gy未満の被ばくを受けた小児がん患者のうち、3 歳未満の小児が38%を占めている。これらの結果から、年少の小児は低線量被ばくに対して特に感受性が高いことが示唆された。」
「ウクライナの小児及び18歳未満の若年者において1986~1994年に甲状腺がんと診断された症例531例を対象に解析したところ、そのうち55%がチェルノブイリ原子力発電所の事故時に6歳未満であった(Tronko et al. 1996)。小児及び19歳未満の若年者における甲状腺がんの年間発生率は、1986年以前の約0.05/100,000 から1992年の0.43/100,000 に上昇した。」

